美術は静かに無題さんに語りかける。#02 | Untitled Vol.3
ゲンビの休館中キャラクター「無題」さんに語りかける、姿なき声の正体とは?
オノ・ヨーコ《My Mommy Is Beautiful》2011年
オノはニューヨークへ移住後、1960年頃から「フルクサス」と呼ばれる前衛芸術家グループに参加しました。彼らが言葉による指示(インストラクション)を積極的に作品に取り込んだように、オノも初期の制作からこの表現形式を採用しています。インストラクション・アートにおける作品成立の要は鑑賞者の参加であり、それによって、モノの作り手としての「作者」とそれを与えられる「鑑賞者」という固定化された関係性が解きほぐされます。参加者のメッセージで壁が埋め尽くされていく過程は、作品の全体像が物理的に規定されえない、インストラクション・アートの柔軟さを体現しているかのようです。
オノ・ヨーコ《My Mommy Is Beautiful》Photo: Kusakari Ken (Life Market Co., Ltd.)
オノ・ヨーコ《夢》2012年
オノは前衛芸術家としての一面に留まらず、平和への取り組みやフェミニズム運動にも積極的に関わるなど、活動家的側面を持つ人物としても広く知られています。第8回ヒロシマ賞受賞においては、「愛と平和」のメッセージを発信し続ける活動が高く評価されました。本作品《夢》は、オノのヒロシマ賞受賞記念展(2011年)の際に行われたレクチャー&パフォーマンスで制作されたものです。同年に発生した東日本大震災を受け、亡くなった人々への鎮魂と慰霊の想いが込められています。
キース・ヘリング《Altar Piece》1990年
「Altarpiece(アルターピース)」とは祭壇画を指します。ヘリング作品においては珍しい宗教的側面を持つ本作品ですが、主題についてもキリストの生涯が下敷きとなっています。両翼の羽ばたく天使、また中央に見えるヘリングのイコン「ラディアント・ベイビー」(Radiant Baby、「光輝く赤ん坊」)などが、ヘリングに特有の大胆なラインで刻み込まれました。
「ラディアント・ベイビー」は、普遍的な希望や救済を示唆するイメージとして他のヘリング作品においてもしばしば登場します。そうした制作の傍ら、ヘリングはエイズ予防啓発を初めとする社会貢献活動にも積極的に従事しました。1988年には広島平和コンサート「平和がいいに決まってる!!」ポスターのメインイメージを描いたり、広島平和記念資料館に訪れるなど、ヘリングの平和に対する想いは広島の地にも寄せられています。本作品は、希望や平和への希求を共有するオノ・ヨーコの寄贈により当館に収蔵されることとなりました。
キース・へリング《Altar Piece》Photo: Hanada Kenichi
《My Mommy Is Beautiful》と《Altar Piece》の両作品は、休館中のゲンビが展開するサテライト展示「どこかで?ゲンビ」の一環で、広島市内の小中学校へと出張しています。休館中の美術館を飛び出した先で、いったいどのような交流が生まれるのでしょうか。
出張先の学校で開催されたワークショップの様子