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「ヒスロム」インタビュー | Untitled Vol.2

休館中の美術館を舞台にヒスロムのプロジェクトが進行中
美術館との関わりから生まれる数々の出来事は、私たちにどんな風景を見せてくれるのだろう

宅地開発される「造成地」をはじめ、これまで様々な「場」とフィジカルに関わり、その時その場所にしか現われ得ない風景と身体の記憶、場や人々との遭遇から生じた出来事の連なりを、映像や写真、パフォーマンスなどを通じて発表/再現する試みを行ってきたヒスロム。広島市現代美術館(ゲンビ)のプロジェクト「現場サテライト」では、改修工事の過程で少しずつ姿を変えていく美術館との関わりを模索していく。美術館の外で起こることを、美術館の中で展示するのではなく、美術館そのものと関わり作品化するという今回のプロジェクト。長期休館前から足を運び、ゲンビという「場」との関わりを深めてきたヒスロムが今考えていること、そして作品制作においてヒスロムが大切にしていることについて聞いた。

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美術館という「場/サイト」
星野:僕たち、もともと郊外の宅地造成地の山で活動をはじめて、その後友達の家の解体など、ゆかりのある場所に長期的に関わって、変化していく場所の中にどう身を置くかということをやってきました。今回、改修過程のゲンビでも同じようなことができるのではとイメージできた反面、美術館という「場」と具体的にどう関われるのか、不安もありました。

吉田:これまで美術館と関わる際は、展覧会に参加するという形が主でしたが、美術館での展示には面白さと同時に難しさも感じていて。今回は少し違うアプローチというか、美術館という「もの」を、その成り立ちや歴史、構造といった部分も含めじっくり知り、関わることのできる機会だと感じました。

加藤:2018年にせんだいメディアテークで個展を行った際、キュレーターの方が「“こと”から“もの”へ」というテーマでヒスロムの作品を伝えたいと言ってくれて。まず出来事があって「もの/物質」ができるんだ、と。本来出来事の結果としての「もの」を展示する美術館で、改修工事中におこるいろいろな「出来事」と「もの」の両面を、身体を通して考えていきたい、と思っています。
あとは、場としての美術館に関わる中で、学芸や総務の方をはじめ、中の人たちと仲良くなりたいですし、工事の方達との関係など、ソフトな面も大事にしていきたい。改修で壊し、作り替えていく中で生まれる、言葉にできないものをすくいとっていければと思います。

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ヒスロム的思考と時間
加藤:僕らがヒスロムとして活動するきっかけになった造成地では、他にもたくさんの友人を誘って一緒に遊んでいました。その「遊び」を、場との関わり方を考案するという意味で「フィールドプレイ*」と呼んでいます。たくさんの人たちと一緒に「遊ぶ」中で、同じ場所に対する関わりにも、人それぞれの捉え方・考え方があることが見え、一緒に身体を動かして遊ぶことで、ほとんど話したことのない人でも、なんとなくその人の感じが分かるようになります。ひとつの「もの」をひとりで触るよりみんなで触るほうが、そしていろいろな方向から触れる方が、その「もの」に近づける。そういった感覚はあります。
*劇団・維新派の故松本雄吉がそう呼んだことによる。

吉田:最初は、自分たちが見つけたものを一緒に見て欲しいとか、自分たちが見つけた面白いものを知って欲しいという気持ちで友達を誘っていました。次第に、造成地で一緒に遊んでいた友達が、そこでの体験から新しい活動を始めたり、僕らが造成地に通っていることで家族もその場所に興味を持ってくれて。自分たちが始めたことが周りの人たちを巻き込み、それぞれの人の中で広がっていくのが嬉しいですね。あと、最初は僕個人の「こんなんしたい」という思いが中心だったのが、ここ4〜5年は自分以外の思考や反応を含めた「ヒスロムさん」という視点が生まれてきたように思います。僕ら3人とは異なる輪郭をもった4人目のメンバーというか。自然と複数の視点で考えるようになってきたような気がします。

星野:プロジェクトを進めていくためには、一定の「やるべきタスク」をこなすことも必要になります。改修工事のスケジュールに合わせて、「これは今日撮らないといけない」とか。でもどういうものを撮るかのイメージはあっても、そこにいたる諸々をすっとばしてしまってはいけない、という感覚があります。時間が足りなくても、話が二転三転しても、制作の過程にギリギリまで時間をかけることの必要性を、ここ数ヶ月のゲンビとの関わりの中で改めて認識した気がします。
例えば、美術館の改修工事でアルミの廃材がでるかもしれないから、それをつかって何ができるかテストをしようと、1月に訪れた際、アルミ缶を溶かす実験をしました。そこでも大事なのは、アルミを実際に溶かすまでに起こるいろいろな出来事の側にある気がします。ご飯のたびにアルミ缶の飲み物を飲んだり、空き缶を潰している内に、いろいろな潰し方が生まれたり。そうやって盛り上がって場が膨れ上がっていって、その状況の中でアルミが燃えて液体になる。その時間の流れは、出来上がった「もの」に視覚的には残らないかもしれないけれど、時間をかけることの圧倒的な豊かさは自分たちの身体に蓄積されていて、その結果見えること、知れることはすごく多いなと思います。

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「現場/サテライト」の展望
吉田:まだぼんやりしたイメージでしかありませんが、ゲンビや比治山で見つけたもの、生まれたものを、一旦広島よりもっと遠くに持って行ってみたい、という気持ちがあります。それがリニューアルの時にまた戻ってくる。戻ってくるために一度遠くに持っていきたい、という。

加藤:工事が進んでいく中で、その時にしか現れない場所に関わっていきたいです。あと僕たちは鳩レースにも参加していて、レース鳩についての作品もつくっているのですが、これまでに知り合った広島のレース鳩関係の方達には今後も会いに行って関係を続けていきたいです。

星野:美術館近くの自販機のところに猫がいますが、すごく人懐こいですね。比治山には狐がいるという噂も聞いています。

加藤:ゲンビに長く勤めてきたギャラリーの監視員さんたちが、休館中どう過ごされているのかも気になっています。

吉田:あと子どもたちとも関わりたいですね。2年という時間の流れは、人間であれば成長し年をとっていく形で現れるわけで、そういった時間の変化を子どもたちと関わる中で考えてみたいです。

星野:子どもたちと関わるとか鳩が飛ぶとか、休館中に起こる出来事をため込んでいって、そうした出来事がリニューアルの時にかえってくるというか。出来事の再演的なことになるかもしれませんが、何らかの形で出来事がもう一度この場にかえってくるようなことを設定してみたいですね。
休館中も僕らが定期的にゲンビに通い、様々な動物や人や「もの」と遭遇し、それがどこかに行ったり戻ってきたりする…そういうことを全部ひっくるめて、美術館が「動き続けている」状況を見せていけたらいいな、と思っています。

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ヒスロムの活動は、今後、館外での展示やオンラインで発信されます。ご期待ください!

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ヒスロム
加藤至、星野文紀、吉田祐からなるアーティスト・グループ。2009年より活動をはじめる。造成地の探険で得た人やモノとの遭遇体験や違和感を表現の根幹に置き、身体を用いて土地を体験的に知るための遊び「フィールドプレイ」を各地で実践し映像や写真、パフォーマンス作品としてあらわす。またその記憶を彫刻作品や舞台、映画へと展開させている。