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トうインタビュー

広島市現代美術館

風や竜巻などの自然現象や、排泄といった生理現象に着目し制作を行う作家・トうによる展示「Oops!!」が広島駅南口地下広場のショーウィンドウで展開中。生物の排泄物の採取、観察に基づき制作された今作を中心に、その関心のありかや制作のプロセスについて伺いました。

——トうさんはこれまでも、実際の生物の排泄物を型取りし、かたちはそのままに不自然な大きさに拡大したり、カラフルな色に着色して見せる作品を発表されてきました。まずは、今回モチーフとなったもの、そして本シリーズで最大のサイズとなる今作がどのように制作されたのか、お聞かせいただけますか。

 作品のもとになったのは、私が飼っている猫のうんこです。展示空間である横長のショーウィンドウに合う、長めのものを探していました。身近で観察・採取できるものをという観点から、探すというより、目標としていた80mmくらいのうんこをうちの子(猫)がしてくれるのを待つ、という感じでしたが。80mmって相当レアな長さなので、採取できるまでにかなり時間がかかりました。
 制作としては、まず、採取したうんこを制作を行う大学に持っていき、3Dスキャンでデータをとります。今回は、原寸大を83倍に引き伸ばしたデータをもとに、発泡スチロール切削機械を使って、全体をいくつもの小さいパーツに分けて削り出すという方法をとりました。それらを接着していって、最終的に組み上がった三つの大きなユニットをつなげて展示しています。

展示作業時のようす

——作品のモチーフとなる排泄物について、トうさんの関心はどこにあるのでしょうか。

 何より、かたちがそれぞれ違うというのがすごく良いと思っています。人間の指紋のように。一見似ているものもありますが、よく観察すると全然違います。うんこをモチーフにした作品を作り始めたのは日本に留学に来てからですが、それまでもうんこには全く抵抗なくて。例えば、動物のうんこにはかたちにかなり特徴のあるものがあるんですけど・・・。四角いうんこがあるってご存じですか。オーストラリアの動物ウォンバットのものなんですが、実物を見てすごい!と思った経験があります。

——たしかに、腸という柔らかい器官から角のある堅いかたちができるのは、とても不思議ですね。そうした、排泄物のかたちが形成されるまでの、消化や排泄にまつわる一連の営みにも注目しているのでしょうか。

 いえ、というより、やっぱりかたちそのものへの興味が強いです。

——かたちを意識するようになったきっかけはなんですか。

 ペットを飼っているので、飼い猫のうんこ掃除がもはや日課で。また文化の差もあるかもしれませんが、中国で友人たちとの日常会話の一環としてうんこの話をするのも普通でした。なので作品制作においても、うんこを汚いものとか、不潔なものだといった固定観念ではなく、毎日目にするものとしてそのかたちを見てほしいと思って作っています。
 また私自身、うんこのかたちはある種の抽象化されたものだと考えています。生物が摂取する食物は、消化の過程で必要なものとして体内に吸収されるものと、そうでないものに選り分けられます。最後に体外へ排泄されるうんこを、生物が取り込んだものが抽象化されたかたちとして捉え、作品として見てもらうときも、この点を意識しています。

——広島芸術センターでの個展(*1)で展示された作品のひとつは、においと関連のある作品だそうですが、においについてどのように捉えていますか。

 私はかなり鼻がいいので、実は臭いにおいが苦手なんです。こういう作品作ってるのに(笑)。下水のにおいがインスピレーションとなった《Aroma》(2022年)という作品は、芸術センターの部屋の奥のトイレから入口にかけて、黒いスティックを組み合わせたユニットをいくつも積み上げて構成したものです。なかなかいらっとするにおいなので(笑)、その印象を黒々とした色にも反映させました。

《Aroma》2022年

——型取りによって目に見えるかたちをそのまま提示する作品がある一方、においなど、目に見えず、具体的な形状を持たないものを扱う作品もあるのは興味深いですね。過去にも《Revolving》(2020年)のように、渦や竜巻といった、特定のかたちをとどめない自然現象を連想させる作品がありますが、かたちに関する両者のアプローチは異なっているように見えます。

 私はどちらにも、ある種の不確定さがあると思っています。《Revolving》は、鉄板を溶断して曲げたものをいくつも組み上げて制作した作品ですが、そこではわざと溶断の跡を残しています。この跡は技法上、コントロールすることができないんですね。このように、制作では自分の手を入れすぎず、完璧に制御することはできないという道具や技法の特性に委ねることがあります。何か具体的なモチーフを想定して制作するのではなく、意識しすぎず勘で造形するのがおもしろいと思っています。このにおいを扱う作品も、設計図などは作らず、自由に素材を組み上げて作りました。これで完成、という決め手もあるにはあるのですが、その時の勘によります。うんこに関しては、はっきりしたかたちはあるのですが、そのかたちを生み出す消化という営みはコントロールができません。そこには人間の作為ではない、生物の生理現象によるかたちの不確定さがあると思っています。

《Revolving》2020年

——今作《Oops!!》の表面をつぶさに観察すると、実際の排泄物の凹凸と、データの拡大処理の過程で出てくるポリゴン状の凹凸とが混在している様子が見て取れます。そのような、ある種の自然の営みによって形成されるかたちと、人工的な操作の過程で現れるかたちとが同居していることについて、どうお考えですか。

 技術的な問題として、原寸大のデータを大きく拡大すると、どうしてもポリゴン状の凹凸が出てきてしまうという背景があります。でもそうした、生々しいうんこのかたちにデジタルデータ的な要素が垣間見えるという矛盾があるのも良いなと思っています。今回の作品でその矛盾を積極的に見せたい、というわけではありませんが、そこにもある種の不確定さが含まれているように感じます。よく観察するとそれが垣間見えるというのもおもしろいと思いますね。

《Oops!!》表面

——他に、かたちを見せるという点においてこだわったことはありますか。

 照明の調整にはかなりの時間をかけました。レリーフになっているので、より立体感を出すため、できるだけ作品上部の突き出ているところ全体に光を当てたくて。スポットライトと作品の距離が近いので、局所的に光が集まるとバランスが悪くなるんです。

——たしかに、端までライトが当たることによって、作品表面のポリゴン状の凹凸がくっきり見え、スキャンによってかたちをそのまま写し取ったものであるということもまた、強調されているように感じられます。

光の当たり方を均等にすることで、作品全体がひとつのまとまった物量感を持つものとして見えるように工夫しました。うまく立体感も出せたと思っています。

広島駅南口地下広場ショーウィンドウで展示中の《Oops!!》 Photo: Kenichi Hanada

——作品の色はどのように決定されるのでしょうか。ピンク色の今作を見ていると、焦点が定まらなかったり、場所によってはモザイクのようにも見えて目がチカチカし、まるでパソコンのモニター上で見ているかのような感覚を覚えるなど、色が見え方に影響しているようにも思われます。

 色は、展示場所やコンセプトによってどれが良いかを考えます。例えば2020年の小豆島の展覧会(*2)では、廃墟のような、暗い倉庫のような場所での展示だったので、よりうんこの生々しさが際立つ茶色を選びました(《Data》(2020年))。今回の展示場所である駅地下も、環境的に暗めの場所なので、沈まないようにぱっと目をひく色の方が良いのでは、ということと、うんことは反対の印象のかわいい色を、ということでピンク色を選んでいます。また、かわいい色にすることで、うんこに対する先入観なくかたちを見てほしいという思いもありました。展示作業の時は、お年寄りの方から「これは桜色をイメージしたんだよね」だとか、女子高校生から「おいしそう」といった反応もありました。

《Data》2020年

——展示作業中もさまざまな反応が寄せられたんですね。駅地下という場所で展示することや作品を見てもらうにあたり、何か期待していることはありますか。

 まずはやはりかたちをよく見てほしいと思っています。多くの人が行き交う場所で展示することで、「これはなんだろう?」という疑問を感じてもらったり、うんこだと気付いた時には改めてそのかたちをよく見てもらえればと思います。もちろん、見る人から反応をいただけることも嬉しいです。たとえそれがネガティブな意見だったとしても、反応がくるということは、ちゃんと見てくれている人がいてこそだと思うので。

——今回のタイトル「Oops!!」は、そういった見る人の反応のまさにそのひとつを言い表しているのでしょうか。

 そうですね。タイトルはまず、作品を見た人にとっての「Oops」、そしてもうひとつに、作品自身が発する「Oops」を意味しています。前者は、「なんでここにうんこがあるんだ!?」というような、驚きを伴うときに出る「おっと!」という意味での「Oops」です。後者は、作品が広島駅に登場するにあたり、「おっと!失礼」といったような、ちょっとした断りを入れるときに出る「Oops」ですね。「広島駅に失礼しま〜す」という感じ。個人的にも気に入っているタイトルです。
 過去にうんこを扱った作品のタイトルには、見る人にそのかたち以上の何かを示唆したり、情報を含んでいるように感じさせるものもあります。先ほどの話にも出た《Data》という作品は、かたちに生々しさがある一方で、タイトルはどこか堅さのある印象を伝えている気がします。うんこのシリーズに関しては、見る人に対して説明をしすぎない、意味のないタイトルの方が合っている気がしますね。その方がよりかたちに目を向けてもらえるように思いますし、解釈や反応が広がるように思います。

*1 トう個展「Aroma de Vanta」(広島芸術センター、2022年1月29日〜2月6日)
*2 「三都半島アートプロジェクト2020」(香川、2020年9月12日〜9月27日)

【プロフィール】
トう
上海出身。2021年、広島市立大学大学院博士前期課程彫刻専攻修了。現在、同博士後期課程在籍中。近年の主なグループ展に、「三都半島アートプロジェクト」(香川、2020・2021)、「2021彫刻の五・七・五-アジア芸術系大学国際交流展in台湾」(国立台湾芸術大学、台湾、2021)、「Cranky Vitamins」(広島芸術センター、広島、2021)。2021年、AAC2021(学生限定立体アートコンペ)入選。
Twitter: @amberr_tou

【展示情報


トう「Oops!!」
広島駅南口地下広場ショーウィンドウでの「どこかで?ゲンビ」第3弾として、広島市在住の作家・トうを紹介します。トうは、自然や生理現象といった具体的な形状をもたないものへの関心から作品を制作しています。風や竜巻といった自然現象を有機的にあらわす立体作品の制作と並行して、消化を経てつくり出される生物の排泄物を採集・観察し、3Dスキャンや型取りによって作品化してきました。作家自身が美しいと感じる姿をそのまま扱いながらも、それらを不自然に拡大したりカラフルに着色することで、「もの」がもつ物質的な生々しさを取り除き、抽象的なかたちへと変化させます。
今回、駅地下のショーウィンドウに巨大なピンク色のレリーフが登場します。表面にあらわれる独特の凹凸が、生物の腸を通過する過程でできたものだと気づくとき、鑑賞者は驚きと共に自らの視点の異化を体験するでしょう。

会期|2022年1月22日(土)~5月22日(日) 7:00~22:00
会場|広島駅南口地下広場ショーウィンドウ(広島市南区松原町9-1)
※会期中無休、観覧無料
協力:株式会社スギタニ

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